不動産コンサルタントのつぶやき

不動産コンサルタントが商業などで思うこと

記憶の渚にて

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時間

 

そして、その時間を構成する要素のなかで最も重要なものが記憶なのだ。

試みに「時間」から「記憶」と言う要素を差し引いてみれば、そのことはすぐに了解できる。仮に、私たちから記憶が奪われ、すべてが刹那刹那で忘れ去られていくのならば、どこにも時間など存在しなくなってしまうだろう。記憶を失えば、時間を感ずる私たち自身がいなくなるのだから、それは当然と言えば当然だ。誕生も、人生も、死も、まるで時間の流れに乗って生起しているかのように見えるが、それはそうではなく、誕生や人生や死の記憶こそが、時間というものを作り出している。つまるところ「歴史」が最初にあるのではなく、「歴史家」が最初にいるというわけなのだ。

 

 

 

記憶

 

 

記憶というのは、私の内部に存在するのではなく、私の外部に大きな海のようなものとして広がっているのではないか。

あのとき私は一瞬でその「記憶の海」に飛び込んだのではなかったか。

記憶こそが生命の本体であるならば、この世界に送り出される前に私がいた場所はその海だと言うことになる。まったく未知の場所でありながら不思議な懐かしさを覚えたのは、それゆえだったのかもしれない。

誤解を恐れずに言えば、現代のクラウドコンピューティングと似たようなやり方で、我々は自分のコンピューター(脳)に蓄えた情報(記憶)を外部のホストコンピューター(記憶の海)に絶えず送信してるのではないだろうか。また、ホストコンピューターから自分や自分の祖先が蓄えてきた記憶を必要に応じて受信しているのではないだろうか。

 

(「記憶の渚にて白石一文著 より)